(2010年2月22日、日経ビジネス)
Twitter(ツイッター)
販促やマーケティング、危機管理
「Twitter(ツイッター)」は単なるおしゃべりの道具ではない。米国では、多くの大企業が販促やマーケティング、危機管理に取り入れている。
ビジネス・ツイッター
厳しい経済環境と、コストカットの重圧
ツイッター先進国での事例が詰まった最新刊『ビジネス・ツイッター』と、活用法をひもとく。
日本企業はかつてないほどの厳しい経済環境と、コストカットの重圧にさらされている。だからといって、顧客との対話を絶やすわけにはいかない。
伝統的なマーケティング
テレビCMやダイレクトメール
他方、テレビCMやダイレクトメールといった伝統的なマーケティングが、その効力を失いつつある。
では、どうすればいいのか。
最も費用対効果が高いコミュニケーションツール
その解として、2010年3月8日に刊行される『ビジネス・ツイッター』(シェル・イスラエル著、日経BP社刊)は、「最も費用対効果が高いコミュニケーションツール」として、ツイッターを活用することを勧めている。
SNS
mixi(ミクシィ)
ツイッターは、メールとブログ、そして「mixi(ミクシィ)」に代表されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の特徴を合わせたような新手のソーシャルメディアだ。140文字以内の投稿(つぶやき)が、インターネット上で無数に溢れ返っている。
フォロー
フォロワー
他人をフォロー(登録)すると、そのつぶやきがリアルタイムに自分の画面に伝わり、膨大な量のつぶやきが滝のように流れていく。自分がつぶやけば、逆に自分を登録してくれた人(フォロワー)の画面へと伝わる。
鳩山由紀夫首相
無料サービス
このシンプルな無料サービスが世界中で大流行している。利用者数は世界で1億人以上と推測され、日々、加速度的に増えている。日本でも鳩山由紀夫首相から著名芸能人まで様々な人々が使い始め、話題を呼んだ。
ツイッター先進国
ビジネスに欠かせないツール
一方、先行く米国では、ビジネスに欠かせないツールとして存在感を高めている。イスラエル氏が放つ最新刊を引用しながら、ツイッター先進国のビジネスの現場で何が起きているのか、ひもといていく。
デル
ツイッターを通じたプロモーション
「ツイッターを通じたプロモーションで、650万ドル以上の売り上げを達成した」
2009年12月、パソコン大手の米デルはこんな発表をした。
公式アカウント
アウトレット品
デルがツイッターに公式アカウントを開設したのは、2007年5月。そこから約2年間で、リース明けの旧モデルや、返品を化粧直しした「アウトレット品」を200万ドル以上、新品を100万ドル以上、売り上げた。
つぶやいただけ
2009年12月の発表は、その後わずか半年で350万ドル以上を売ったという事実を物語る。140文字以内で1日数回、つぶやいただけだ。
コストのかからない解決策
アウトレット品は顧客の都合で生まれる。旧モデルだから宣伝費はかけられないし、在庫の予測もできないため、思うように売れないのが悩みの種だ。そこで、コストのかからない解決策として、ツイッターに目をつけた。
フォロワーだけに特別なセール情報
ディスカウントコード
アウトレット品の担当者は、ツイッターのフォロワーだけに特別なセール情報をつぶやく手法を確立した。通販サイトの「ディスカウントコード」の欄に入力すると、さらに2割の割引を受けられるコードを耳打ちしたのだ。クリックした最初の10人だけが割引される、といったセールも開発した。140文字には、通販サイトへのリンクも書くことができる。
企業顧客向けのアカウント
自分だけへの特別なセール
顧客は自分だけへの特別なセールに弱い。売り上げはうなぎ登りに急増し、フォロワー数は2009年12月、150万人を突破した。気を良くしたデルは、新品のセール向けや、企業顧客向けのアカウントを開設し、さらに日本を含む世界各国へと、この手法を広げている。今では35以上の部門で、100人以上の社員がつぶやいているという。
成果の意味
四半期の純利益が3億ドルを超えるデルにとって、この成果は何を意味するのだろうか。
コストゼロのPR手法
イスラエル氏
『ビジネス・ツイッター』の著者、イスラエル氏はこう綴る。
通販業者なら誰でも同意するだろうが、コストゼロのPR手法としては大変な成果だ。(中略)2年で300万ドルの売り上げなどというのは、ケシ粒のようなものだろうと思うかもしれない。確かにそう考えることもできる。しかしマルコム・グラッドウェルのいう「ティッピング・ポイント」(新しいトレンドが劇的に普及し始める転換点)の面から考えてみる必要がある。私が言いたいのは、今は取るに足りないものに見えても、馬鹿にはできないものがあるということだ。
ツイッターでの通販
デルのアウトレットで始まった、ツイッターでの通販そのものは、まだ巨大な存在になっているとは言えない。しかし、顧客との対話のチャネルとして、日ごとに重要性を増している。
デルのツイッターチーム
「ソーシャルメディア」専門のチーム
デルのツイッターチームは、売ることだけに苦心しているわけではない。デルにはブログやSNSも含めた「ソーシャルメディア」専門のチームが存在し、メンバーは、デル製品やサービスに関するつぶやきを監視している。
本音を知る
多くのユーザーは、歯に衣着せぬ物言いだ。だが、そうした声に耳を傾けることで、顧客が何を求めているのか、本音を知ることができる。
リアルタイムでタダ
市場調査
さらにメンバーは、積極的に会話へ参加して、時にはアンケートを取ることもある。それらはすべて、リアルタイムでタダだ。数週間後に結果が出る市場調査のために大金をかける必要はない。
早期警戒システム
チームはデルの製品やサービスについて息巻くユーザーを見つければ、そこに飛び込み、話を聞く。非があれば謝り改善を約束し、誤解があればそれを解く。デルにとってツイッターは、売り上げを蝕む要素をいち早く発見する「早期警戒システム」でもあるのだ。
コムキャスト
ケーブルテレビ
こうしたツイッターの使い方は米国の大手企業にとって、一般的になりつつある。ケーブルテレビ米大手、コムキャストは成功を収めた1社だ。
ユーチューブ
コムキャストは長年、米国のケーブルテレビ会社を対象とした顧客満足度調査で末席を温め続けていた。原因はサポートの質の悪さ。ある家庭を訪問したサービスマンが、機器を修理する代わりにソファで眠りこけている映像は、ユーチューブで150万回以上も視聴されるほど有名となった。
フォード・モーター
炎上
コムキャストの顧客サポート部門の中級幹部がツイッターにアカウントを開設したのは、この動画が話題となっていた2008年4月である。フォード・モーターへの批判が集中して「炎上」していた時期と重なる。だがこの幹部は、自社サイトの火消しをしなかった。
コールセンター
出張サポート
その代わりに「顧客が抱えている問題を解決するために自分がいる」と宣言し、コールセンターのオペレーターの如く一人ひとりのつぶやきに丁寧に返信し、必要があれば電話をかけ、さらに必要があれば出張サポートの指示を出し続けた。
クレーマーをファンへ
親身な対応
1年後、彼がツイッターで向き合った顧客の数は2000人を超えていた。その親身な対応はクレーマーをファンへと徐々に変え、コムキャストの顧客満足度の指数は2009年3月、前の四半期に比べて9%も上昇した。
一年間の成果
この事実についてイスラエル氏は、こう綴る。
コムキャストには、2400万人の顧客がいる。そのうちツイッターを使っているユーザーはまだごく一部だ。すべての顧客がツイッターを通じたサービスを利用するようになるには、長い時間がかかるだろう。しかし、その方向への道筋がつけられたことは確か。一年間の成果としては大きなものだ。
イライアソン
イライアソン(コムキャストの中級幹部)には1万6000人のフォロワーがいる。イライアソンの他にコムキャストでは、9人がツイッターのアカウントを開いてサポート業務にあたっており、全体として非常に前向きなトレンドを作り出している。
フォード
24時間以内に鎮火
炎上の消火にも、ツイッターは有効であるということを示したのが、自動車米大手のフォードだ。
レンジャー
ファンが集まるウェブサイト
火種は2008年4月にフォードの法務部門が、「レンジャー」という車種のファンが集まるウェブサイトの管理者に送った、警告文だった。「速やかにサイトを閉鎖し、5000ドルの損害賠償金を支払うことを要求する」。
ファンサイトの掲示板
瞬く間に炎上
管理者が夕方、ファンサイトの掲示板に抗議のコメントを記すと、ほかのファンサイトも巻き込んで、瞬く間に炎上した。ブログ、SNS、ツイッターと延焼は広がり、一晩のうちにフォードは、ファンをないがしろにする企業として、悪名を轟かせてしまった。
ソーシャルメディアのプロ
フォードにとって幸運だったのは、炎上の直前にソーシャルメディアのプロが、「グローバルデジタル・マルチメディアコミュニケーション」という新設部門のマネジャーとして就任していたことだ。当時、5700人のフォロワーを抱え、ソーシャルメディアのコミュニティーで信頼を得ていたスコット・モンティ氏である。
RT(リツイート)
彼は寝る直前に出火を察知すると、終夜、延焼の様子を監視した。翌日午前には、「フォード」と検索して、憤るユーザーを見つけると一人ひとりに「現在、事態の把握と収拾に向けて法務部門と交渉中です。ほかのユーザーにもRT(リツイート)してください」などと発信し続けた。その数、約140回。リツイートとは、他人のつぶやきを再投稿して拡散させることだ。
延焼
これで延焼はかなり食い止めることができた。引き続きモンティ氏は法務部門に確認を取る一方で、サイトのオーナーに電話をかけ、午後にはこう宣言した。
宣言
「ファンサイトではフォード車の偽造部品が販売されていた。この事実は伏せられていました。サイト管理者は偽造品の販売を行わないと約束したので、警告文の要求は取り下げます」
批判を完全に鎮火
こうしてモンティ氏は出火から24時間以内で、フォードへの批判を完全に鎮火させた。
重要な教訓
必ずソーシャルメディアに漏れる
エピソードについて、モンティ氏の友人でもあったイスラエル氏は、こう綴っている。
われわれはここで重要な教訓を得る。会社の評判が危機に瀕するような事態が起きたら、その情報は必ずソーシャルメディアに漏れる。会社の評判にかかわるような危機が起きる前に、ツイッターに加わり、あらかじめ信頼性を確立しておくのは極めて賢明な戦略と言えるだろう。
忠告
顧客同士が影響を与え合うプロセス
そしてイスラエル氏は、すべての企業に対して、こうも忠告している。
ソーシャルメディアは何か新しい事態を作り出したのではない。以前から当然のこととして存在していた、顧客同士が影響を与え合うプロセスを加速し強化したのだ。企業はこれを好むと好まざるとにかかわらず、受け入れなければならない。
主要な意思決定
主要な意思決定の場は企業の末端の現場に移動しただけではない。そこからさらに向こう側に、つまり顧客の手に落ちているのだ。これを嫌ったところで、後戻りは不可能である。
ツイッターで顧客満足度を高める
デルのパソコン販促の活用例
1 通販サイトのサポート
「HPから注文できません(T_T)支払い情報入力でエラーが出ます」などの問い合わせへの返事
米国の先進事例をまとめた『ビジネス ツイッター』
2 新商品の宣伝
販売する製品モデルを紹介
3 店舗への誘導
顧客の近くの販売店を表示
4 キャンペーンの案内
関連商品を薦める
5 ツイッター限定の割引クーポン
期間や人数を限定する
どんな部署でも活用できる
米国におけるツイッターのビジネス活用
主な事例
広告宣伝・販売促進
米デルが中古パソコンのディスカウントコードをフォロワーだけに教えるなどして、2年で300万ドル以上を売り上げた
顧客サポート
ケーブルテレビ大手、米コムキャストの顧客サポート担当者は、1年で2000人もの顧客のつぶやきに対応し、顧客満足度を9%押し上げた
社内利用
米IBMは社員のツイッターの利用に一切制限を設けておらず、数1000人の社員が電子メールのように社内外とのコミュニケーションに利用している
人材募集
大手給食サービスのソデクソは、副社長から現場のシェフまでツイッターで人材募集を行い、採用にまで至った
フォード車のファンサイトのトラブルは、ツイッターで解決
日本でも広がる“つぶやきマーケ”
米国では既に、ツイッターがビジネスの世界に浸透している。数1000人が自由につぶやく米IBMのように、アカウントの開設から利用方法、内容まで、社員の自主性に任せる企業も多い。
カトキチ
企業の公式アカウント
そこまで成熟しているわけではないが、日本でも雨後のたけの子のように、企業の公式アカウントが生まれ、徐々にではあるが成果も見え始めている。代表格が、冷凍うどんで有名な「カトキチ」のブランドを継承しながら、2010年1月に社名変更したテーブルマークだ。
ギャグで1万人獲得
2007年に循環取引が発覚してから、旧加ト吉は一切の広告宣伝から手を引いていた。広告予算はほぼゼロ。すべてはテーブルマークとして再出発してから。だが、消費者とのコミュニケーションは再開しておきたい。
旧加ト吉
社名変更
社名変更を2カ月後に控えた2009年10月、旧加ト吉の広告宣伝と広報を束ねるコーポレートコミュニケーション部の末広栄二部長は、流行りの兆しを見せていたツイッターにおける活動を、独断で開始した。
自社に絡めたオヤジギャグ
「消費者は既存の広告に飽き飽きしているので、宣伝はほとんどしないようにしている」と語る末広部長。試行錯誤の末に始めたのが、自社に絡めたオヤジギャグで、緩く消費者とつき合うコミュニケーションだった。
ありカトキチ
おそれいりこだし、麺類皆兄弟
「フォローしました!」とくれば「ありカトキチ」、「美味しいです」と褒められれば「おそれいりこだし」、「他社だけど、うどんなう」と言われれば「麺類皆兄弟」と返す日々。
何らかの返事をする
カトキチのアカウントに向かってつぶやいてくれる人には、極力、何らかの返事をするようにした。朝も夜も、休日も大みそかも構わず、つぶやいた。
ツイッターの人気者
大企業なのに、面白く丁寧
大企業なのに、面白く、一人ひとりに丁寧に相手をしてくれるカトキチの評判は口コミで一気に広がった。いつしかツイッターの人気者となり、フォロワー数は年明けに1万人を突破、2010年2月時点で日本企業としては随一の1万3000人以上を誇る。フォローはいつでも解除できる。カトキチに好感を抱いてくれる大切な消費者、1万人以上と直接つながっているということだ。
宣伝効果
「ツイッターユーザーの中で、うどん比率は確実に高まっている」。そう断言する末広部長は、顧客の声を拾う市場調査の場としても、ツイッターを活用している。年明け以降は、様々なマスメディアにも取り上げられた。その宣伝効果も計り知れない。
UCC上島珈琲
かといって、相も変わらず、昔ながらの企業本位の考え方でツイッターを活用してしまうと、UCC上島珈琲のように痛い目に遭う。
自動的にキャンペーンの告知
2010年2月5日朝、UCCは「コーヒー」「懸賞」という言葉を入れてつぶやいたユーザーに、自動的にキャンペーンの告知をつぶやくシステムを稼働させた。
スパム
ユーザーから反発
この行為はツイッターが禁じている「スパム」であり、多くのユーザーから反発を買って、炎上に至った。
謝罪文を掲載
真摯な対応
ただし、その後の対応は迅速だった。別部門の担当者が炎上に気づき、即座にキャンペーン告知を中止。2010年2月5日午後には謝罪文を掲載し、夜にグループ企業の公式アカウントで改めて謝罪をした。その真摯な対応に、「頑張れ」などと温かい言葉を投げかけるユーザーも現れ、騒動は日をまたぐことなく収束するのである。
マスメディアとの違い
「マスメディアとソーシャルメディアの違いがよく分かりました」。UCCの担当者は、後日、こう語った。
マーケティング活動
日本企業のマーケティング活動は、まだまだ米国型に移る過渡期にある。逆に言えば、それだけチャンスもあるということだ。